音楽の骨格を学ぶ上で避けて通れないのが、音楽理論における和音の基礎です。通常、3つ以上の異なる高さの音が同時に鳴り響く状態を「和音(コード)」と呼びます。この和音を構成する音を一度に鳴らす弾き方を「和音奏法(ブロックコード/密集和音・開離和音)」と呼ぶのに対し、構成音を一度に鳴らさず、1音ずつ順番に響かせる演奏手法を総称して「分散和音(ブロークンコード)」と定義します。
ここで多くの学習者やアレンジャーが疑問を抱くのが、分散和音とアルペジオの違いです。日常会話やネット上の解説では同義語として扱われがちですが、音楽史および演奏実務においては明確な階層関係が存在します。分散和音は「時間をずらして奏でる和音表現全般」を指す包括的なカテゴリーです。それに対し、イタリア語の「ハープ(arpa)を爪弾くように」という語源を持つアルペジオは、主に最低音から最高音へ向かって流れるように連続して駆け上がる、極めて直線的・装飾的な演奏様式を指します。
例えば、ド・ミ・ソの和音を「ド→ミ→ソ」と順に弾くのはアルペジオの典型ですが、「ド→ソ→ミ→ソ」と順序を跳躍させたり、低音のドを鳴らした後にミとソを交互に刻んだりするパターンは、アルペジオというよりも分散和音(ブロークンコード)の領分です。分散和音の楽譜記号としても、音符の左側に波線(ウェーブ記号)を縦に配置する「アルペジオ記号」は一音ずつ素早くずらしながら弾く指示ですが、音符自体が独立したリズムで楽譜上に刻まれている場合は、記号ではなく純粋な音形としての分散和音として解釈されます。