知性を持たない「無垢の巨人」は、なぜ執拗に生きた人間を追い求め、捕食しようとするのか。作中で明かされたその理由は、哀しくも切実な防衛本能でした。無垢の巨人は、九つの巨人の継承者の脊髄液を摂取することで、知性を取り戻し人間に戻ることができます。つまり彼らの捕食行動は、果てしない悪夢のような巨人化状態から脱し、「人間へ戻りたい」という無意識の渇望に突き動かされた行動だったのです。消化器官を持たず、満腹になれば吐き出してまで人間を襲い続けた異様さは、飢餓ではなく人間に戻る可能性を希求し続けた結果でした。
また、巨人の群れの中に突如として現れる「奇行種」の存在理由について、原作者の諫山創氏は過去のメディアインタビュー等において、非常に興味深い創作の意図を明かしています。諫山氏によると、無垢の巨人とは本能的に行動が固定化された「プログラムされた存在」のようなイメージであり、奇行種はそのプログラムに工場の欠陥品のような「glitch(グリッチ=バグや不具合)」が生じた状態として着想されたと語られています。
生前の強い未練や記憶の断片、あるいは巨人化薬の注入精度のブレによって、無垢の巨人の本能プログラムが狂い、目の前の人間を無視して遠くの集団へ向かったり、突如として異様な跳躍や匍匐前進を行ったりする――設定の根底に流れる機械的かつ生理的な不気味さこそが、物語初期の絶望感を決定づけていたと言えます。