ラガーが局地的な名物から世界的な工業製品へと飛躍を遂げた背景には、二人の偉大な科学者の存在がある。
19世紀後半、細菌学者ルイ・パスツールは発酵が微生物の活動によるものであることを証明し、加熱殺菌法によってビールの腐敗を防ぐ道を切り拓いた。だが、それだけでは醸造現場で頻発する「ビールの酸敗」や「品質のブレ」を根本的に防ぐことはできなかった。当時の醸造所では、野生酵母やバクテリアが混ざり合った不安定な酵母泥を使い回していたからだ。
この混乱に終止符を打ったのが、デンマークのカールスバーグ研究所に所属していたエミール・クリスチャン・ハンセンである。ハンセンは1883年、混在する酵母の中からラガー醸造に最適な単一の優良酵母を分離・純粋培養する技術を世界で初めて確立した。
特筆すべきは、カールスバーグ社がこの画期的な純粋培養酵母の特許を独占せず、世界中のライバル醸造所へ無償で提供した事実だ。この英断によってビール醸造業は一気に近代産業へと脱皮し、均一で高品質なラガービールが地球上のあらゆる都市で大量生産可能になった。