「なぜ、これほど重いソファーが簡単に動いてしまうのか」。多くの人が抱くこの疑問に対し、建材工学と家具設計の双方が示す回答は明快です。主な原因は重量不足ではなく、水平方向に加わる「剪断荷重」と床面の静止摩擦係数のアンバランスにあります。
近年の一戸建てやマンションで主流となっているシートフローリング(EBオレフィンシート張り)は、日頃のワックスがけを不要にするため、表面に高硬度の防汚・耐傷コーティングが施されています。この加工は清掃性を劇的に向上させる反面、表面のミクロな凹凸を極限まで減らし、摩擦係数を低下させています。そこへ人が腰掛ける際、垂直方向の体重だけでなく、斜め後方へ押し出す強力な水平荷重が瞬間的に加わります。質量30kg〜50kgのソファーであっても、大人が勢いよく座った瞬間の水平分力は20kgfを超え、滑らかな床の上を容易に押し滑らせてしまうのです。
さらに盲点となるのが、家具メーカーが初期状態で脚裏に貼り付けている「保護フェルト」です。配送時や模様替えでの移動を容易にし、引きずり傷を防ぐために貼られたフェルトは、物理学的には「極めて滑りやすい低摩擦素材」そのもの。傷を防ぐためのフェルトが、皮肉にも日々のズレを加速させる元凶となっています。