シリコンスプレーが真価を発揮するのは、非通電環境における樹脂・ゴムパーツや家具の木工レールなど限定された部位です。整備士や鍵職人が口を揃えて「絶対にスプレー缶を向けてはならない」と警告する代表的な場所には、明確な工学的理由が存在します。
代表的なNG箇所として、まず挙げられるのが「玄関や車の鍵穴(キーシリンダー)」です。鍵の抜き差しが引っかかる際に吹きかける人が後を絶ちませんが、内部の超精密なピン構造にシリコーンオイルが付着すると、外部から侵入した砂埃や金属粉を強力に吸着します。数日から数週間でヘドロ状に固着し、ある日突然鍵が全く回らなくなる、あるいは抜日常のトラブルに発展します。
続いて極めて危険なのが「自動車やバイクのブレーキ関連部品」です。ブレーキローター、ディスクパッド、ドラム内部などにシリコーンが付着すると、必要な摩擦係数がゼロ近くまで低下します。ブレーキを踏んでも滑って全く止まらない「制動力喪失」を引き起こし、死亡事故に直結する危険性があります。同様の理由で、運転席のアクセル・ブレーキペダルやステアリング、靴の裏への付着も操作ミスを誘発するため厳禁です。
さらに見落とされがちなのが「家電・PC・自動車のスイッチや電子機器の接点」です。シリコンには優れた電気絶縁性があります。リレー回路やマイクロスイッチの隙間に入り込むと、微細なアーク放電によって強固な絶縁被膜を形成し、スイッチを押しても通電しない「接点障害」を半永久的に引き起こします。
室内環境では「フローリング、階段、廊下などの床面」が挙げられます。スプレーの飛沫粒子が床にわずかでも舞い落ちると、まるでスケートリンクのような極端な低摩擦状態になります。靴下やスリッパで歩いた同居人が派手に転倒し、大腿骨骨折や頭部打撲といった深刻な家庭内人身事故に繋がるケースが頻発しています。