本作のメロディを手がけたのは、ビートルズやナイアガラ・サウンドに造詣が深い希代のメロディメーカー・杉真理。作詞は杉との名コンビで知られる田口俊、編曲には名匠・服部克久が名を連ねています。
杉真理は制作時、本場のジャズやブルースの泥臭さに寄りすぎず、日本の歌謡曲が持つ哀愁と都会的なポップセンスが同居する「ジャズ歌謡」の黄金比を模索しました。その緻密な音作りは、コード進行と楽譜の設計にも色濃く表れています。
楽曲のベースはゆったりとした3連符(スウィング・シャッフル)のリズム。メジャーセブンス(M7)やディミニッシュ(dim)、マイナーセブンフラットファイブ(m7-5)といったジャジーなテンションコードが絶妙に配置されており、アコースティックギターやピアノの弾き語りでも奥行きのある響きを生み出します。コード進行自体はシンプルでありながら、歌い手のニュアンス次第でどこまでも表情を変える懐の深さが特徴です。
また、田口俊による歌詞は、あえて劇的なドラマを描いていません。カウンター越しにグラスを傾け、「もう少し 喋りましょ」「ありふれた 話でしょ」と語りかけるだけの短い言葉の連続。この過度な説明を削ぎ落としたミニマリズムこそが、聴き手自身の個人的な思い出やセンチメンタリズムを投影させる余白を生み出しています。