セリフが極端に少なく、オーケストラ音楽と効果音(SE)で感情を表現する『トムとジェリー』ですが、キャラクターたちの発する悲鳴や笑い声、時折交わされるセリフには伝説的なクリエイターたちの魂が込められています。
原語版におけるトムの象徴的な「叫び声・悲鳴」を担当したのは、なんと監督のウィリアム・ハンナ本人でした。自らマイクの前に立ち、喉を痛めるほどの絶叫を録音してテープを加工したものが、現在まで受け継がれるトムのアイデンティティとなっています。また、稀に流暢な英語を話すシーンでは、名優メル・ブランク(バッグス・バニーなどの声で知られる「千の声を持つ男」)が声を当てていました。
一方、日本国内における『トムとジェリー』の爆発的ヒットを決定づけたのは、昭和から平成にかけてTBS系列等で放送された日本語吹き替え版の卓越したキャスト陣です。
- トム役:八代駿(初代 / 哀愁と愛嬌に満ちた叫び声)、肝付兼太(2代目 / スネ夫役でも知られる変幻自在の名演)
- ジェリー役:藤田淑子(初代 / 聡明で透明感ある声)、堀絢子(2代目 / ハットリくん役など唯一無二の小悪魔的表現力)
- タフィー役:貴家堂子(タラちゃん役として知られる愛らしい幼児声の至宝)
- スパイク役:北村弘一、宝亀克寿(重厚感と父親の温かみを感じさせる低音ボイス)
- ナレーション:谷幹一(軽快な語り口で物語のテンポを演出)
原語版のサイレントに近い構成に対し、日本の吹き替え版では独自のセリフや軽妙なナレーションが贅沢に追加され、子どもから大人まで楽しめるエンターテインメントとしての完成度を極限まで高めました。