札幌市時計台の真価は、外から眺めることではなく、木製の引き戸を開けて館内に入り、その息遣いを肌で感じることにあります。建物の正式名称は「旧札幌農学校演武場」。1878年(明治11年)、北海道開拓の指導者を育成するために設立された札幌農学校(現・北海道大学)の初代教頭、ウィリアム・スミス・クラーク博士の構想に基づき、2代教頭ウィリアム・ホイーラーが基本設計を手がけた歴史的建造物です。
元々は農学校生徒の兵式訓練や体育の授業、入学式・卒業式を執り行う講堂として建設されました。1階展示室には、開拓使時代の貴重な古写真や農学校の歩み、新渡戸稲造や内村鑑三といった近代日本を代表する思想家たちが学んだ当時の記録が克明に残されています。展示パネルを丁寧に読み進めると、極寒の未開拓地で若きエリートたちがどのような志を持って学んでいたのか、その熱量がリアルに伝わってきます。
2階へ上がると、天井の高い開放的な「演武場ホール」が広がります。アメリカ開拓期の木造建築様式である「バルーンフレーム構造」で建てられた空間は、木の温もりと清廉な静けさに包まれています。ここには現在、実物大のクラーク博士像がベンチに腰掛けており、隣に座って肩を並べながら記念写真を撮影できる人気スポットとなっています。
そして何より圧巻なのが、1881年(明治14年)から現在に至るまで正確に時を刻み続けている日本最古の機械式塔時計(米・ハワード社製)の仕組みです。動力には電気やモーターを一切使わず、およそ50kgと150kgの鉄の重りが重力でゆっくりと落下する力だけで針を動かし、鐘を鳴らしています。2階にはガラス張りの精密なスケールモデル(兄弟時計)が常設展示されており、歯車がカチカチと噛み合って動く様子を間近で観察できます。毎週木曜日午前中には、現在も手作業で行われている貴重な「重り巻き上げ作業」の見学も可能です。