結論から述べると、自閉スペクトラム症(ASD)そのものによって生じる特定の顔立ちや骨格的特徴は医学的に存在しません。ダウン症候群などの一部の染色体異常症とは異なり、単一のASD診断において目や鼻、輪郭などの身体的パーツに先天的な変形が起こるわけではないのが精神医学界の明確なコンセンサスです。
一部の海外研究では、重度の自閉症を伴う特定遺伝子変異群において顔面計測値(眉間や鼻唇溝の距離など)の微小な差異を解析した例はあるものの、これらは臨床現場で個人の診断に用いられる指標ではなく、一般的なASD当事者の顔つきを規定するものではありません。自閉症スペクトラムの遺伝的要因は、脳内のシナプス伝達や神経ネットワークの構築に作用するものであり、特定の「顔の造形」を形作るものではないと理解する必要があります。
それにもかかわらず、なぜ世間では「発達障害の顔つきの見分け方」といった噂が独り歩きするのでしょうか。その背景には、人間の脳が相手を認識する際、静止画としての顔のパーツだけでなく「視線の配分」「瞬きの頻度」「表情の移り変わり」といった動的な情報を無意識に統合して「顔つき」として処理しているという認知のメカニズムが存在します。