英語のbutter up 意味を深く理解する上で欠かせないのが、そのユニークなbutter up 語源と歴史的背景です。一見すると料理の工程にしか思えないこのフレーズが、なぜ「お世辞を言って相手を丸め込む」という意味になったのかについては、言語学者や文化史研究者の間で主に2つの有力な由来が語り継がれています。
最も広く知られているのが、古代インドの宗教的慣習に由来する説です。ヒンドゥー教の伝統的な儀式において、信者たちは神々の像(シヴァ神やガネーシャ神など)に向けて、精製バターである「ギー(Ghee)」の塊を投げつける習慣がありました。バターを神像に塗りたくることで神の怒りを鎮め、慈悲や幸運、願い事の成就を乞い願ったとされています。この「恩恵を得るためにバターを捧げて機嫌を取る行為」が、時を経て英語圏に伝わり、人間関係における「ごますり」の比喩として定着したという系譜です。
もうひとつは、食文化におけるパンとバターの物理的な比喩説です。硬くてパサついたパンに常温のバターをたっぷり塗り広げると、表面が滑らかになり、喉の通りが格段に良くなります。これを人間関係に置き換え、「気難しい相手や警戒心の強い相手に甘い言葉(バター)を塗りたくることで、こちらの要求を受け入れやすくさせる(軟化させる)」という心理操作のメタファーから生まれたとされています。
語源の真相がどちらであれ、根底に流れる本質は共通しています。それは、単に相手を褒め称えるのではなく、「自分の要求や都合を通すために、あらかじめ相手の警戒心を解いておく」という計算されたアプローチを指している点です。