皮膚がんの臨床現場において、医師たちが最も悔しさを滲ませるのは「あと半年来院が早ければ、完全に切除できたのに」というケースです。大手コミュニティサイトや闘病ブログ、患者支援団体が公開している手記を分析すると、受診に至るまでの過程に共通する行動パターンが浮き彫りになります。
都内のIT企業に勤務する40代男性は、闘病記の中で当時の心境をこう振り返っています。
「入浴時に足の親指の付け根に黒い染みがあるのに気づきました。直前に新しい革靴を履いて歩き回っていたため、『ひどい靴擦れで皮膚の下に血豆ができたのだろう』と思い込んでしまったのです。痛みも痒みもなく、数ヶ月経っても消えないどころか周囲に広がってきたため、妻に強く促されて皮膚科を受診しました。結果はステージIIの悪性黒色腫。医師から『なぜここまで放置したのか』と問われ、血の気が引きました」
SNSや知恵袋などのQ&Aプラットフォームでも、「足の裏のほくろが大きくなってきた気がするが、病院に行くべきか」「爪に黒い線が入ったが、ぶつけた記憶がない」といった相談が年間数万件ペースで投稿され続けています。しかし、その多くが「私も同じものがあるけれど何ともない」「気にしすぎではないか」という素人同士の根拠のない励ましによって、受診のタイミングを逸してしまう構図が存在します。
皮膚科の診察室では現在、ダーモスコピー検査が標準的な鑑別手法として定着しています。ダーモスコピーとは、皮膚表面の乱反射を抑える特殊な偏光レンズとゼリーを用い、病変部を10倍から数十倍に拡大して皮膚深部の微細な色素沈着パターンを観察する光学機器です。
この検査に痛みは一切ありません。皮膚にライト付きのレンズをそっと当てるだけで、わずか数分で終了します。保険適用時の患者負担額も、3割負担であれば初再診料を含めて数百円から1,500円程度に収まります。ダーモスコピーを使えば、足の裏の角質層の溝(皮溝)に色素があるのか、丘(皮丘)に色素がたまっているのかを瞬時に見極めることができ、不必要な切開生検を回避しつつ、悪性の兆候を驚異的な精度で捉えることが可能です。