紋章学(ヘラルドリー)の視点からこの国章を構成するエレメントを分解すると、社会主義の古典的教条と北朝鮮独自のチュチェ(主体)思想が見事な調和を見せている。
まず、最上部で強烈な光条を四方八方に放つ赤い星の意味は、革命の輝かしい勝利と朝鮮労働党の揺るぎない指導力を示している。五角星から放たれる光は、暗闇を照らす思想の力と、世界共産主義運動との連帯を象徴するものとして、旧ソ連のクレムリンの赤い星から直接的な系譜を引いている。
国章の両翼を楕円形に包み込む稲穂の象徴は、大地に根ざす農民階級と食糧の豊穣を表す。中央のダム・送電塔が「プロレタリアート(労働者)」を具現化しているのに対し、外周の稲穂は「農民」を示し、この両者が手を取り合う「労農同盟」こそが国家の土台であるというマルクス・レーニン主義の基本テーゼを図案化したものだ。束ねられた稲穂の下部には、赤いリボンに白抜きのチョソングルで「조선민주주의인민공화국(朝鮮民主主義人民共和国)」と国名が刻まれている。
ここで混同されやすいのが北朝鮮の国旗と国章の違いだ。通称「藍紅色旗(人共旗)」と呼ばれる国旗は、上下の青い帯が主権・平和・友誼を、中央の赤い帯が革命精神を、白い線が単一民族の潔白と純潔を表現している。国家の対外的な主権と民族的連帯をアピールする国旗に対し、国章は「労働者・農民・革命の聖地・社会主義工業化」という内政的統治イデオロギーを凝縮した機能分担がなされている。