そもそも、予言者として祭り上げられたミシェル・ノストラダムスとはいかなる人物だったのか。16世紀南フランスのプロヴァンス地方に生まれた彼は、ペストの猛威に立ち向かった医師であり、天文学と薬草学に通じた当代屈指の知識人であった。彼が筆を執った背景には、過酷な宗教戦争の火種が燻る混沌としたフランス社会があった。
彼の名声を決定づけたのは、フランス宮廷の権力者であった王妃カトリーヌ・ド・メディシスとの邂逅である。占星術やオカルティズムに強い関心を寄せていた王妃の庇護を受け、彼は宮廷お抱えの医師・顧問として重用された。異端審問の嵐が吹き荒れる危険な時代において、権力者の不興を買わずに生き延びるため、彼は意図的に難解な古語や多言語の混交を用いた多義的な表現――すなわち、後世の人々を惑わせることになる四行詩のスタイルを編み出したのである。