赤面症に苦しむ人々が抱える最大のトラウマは、「他人にからかわれた経験」と、それによって形成される強固な防衛機制にあります。SNSや匿名掲示板、カウンセリングの現場で報告される数多くの当事者の独白からは、共通する心理プロセスが浮かび上がってきます。
「学生時代の発表時、クラスメイトから『リンゴみたいに真っ赤じゃん!』と笑われたあの日から、人前に立つと自分の顔に熱いマグマが噴き出すような錯覚に襲われるようになった」(20代・会社員手記より)
多くの当事者は、他者からの何気ない一言をきっかけに、「自分の身体反応はみっともない」「相手に不快感を与えている」と確信してしまいます。精神医学者デイヴィッド・クラーク(David M. Clark)らが提唱した社交不安モデルが示す通り、当事者は対人場面に入った途端、関心の矢印を外部(会話のテーマや周囲の表情)から、自分の内部(顔の熱感、心拍数、手の震え)へと急激に向け直します。これを自己注目(Self-focused attention)と呼びます。
自己注目が高まると、わずか0.5度の皮膚温度の上昇すら「顔が炎上している」かのように主観的過大評価され、それが「早く隠さなければ」という焦りを呼びます。この焦りを周囲に悟られまいと緊張を固めることで、交感神経がさらにスパークし、結果として本当に顔が真っ赤になるという悪循環が完成するのです。
周囲の人々は良かれと思って「気にしなくていいのに」「赤くなるくらい可愛いよ」と声をかけるケースが散見されます。しかし、当事者にとっては「赤くなっている事実を突きつけられた」ことに他ならず、恥辱感をさらに深めるトリガーになり得ます。赤面症の孤独は、他者から見れば「些細な照れ」に見える外見と、本人が内面で体験している「自己同一性の崩壊の危機」との激しいギャップによって深まるのです。