『耳をすませば』の奥深さを決定づけているのが、少女漫画原作の瑞々しい世界観を支える重厚な脇役陣の存在です。ここにはジブリ特有の大胆なキャスティング思想が如実に表れています。
「知の巨人」立花隆氏を父親役に抜擢した宮崎駿の演出意図
雫の父親である月島靖也役には、ジャーナリスト・評論家として知られた立花隆氏が起用されました。専門の声優や俳優ではない文化人をメインキャラクターの父親に据えるという人事は、当時大きな話題を呼びました。
宮崎駿氏は、物語終盤で雫の進路問題に対して「人と違う生き方はそれなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにもできないからね」と静かに諭す父親の言葉に、本物の知性と説得力を持たせることを重視しました。演技の巧拙ではなく、人間としての重みや飾らない父親像をそのままマイクに乗せるための起用であり、立花氏の素朴で落ち着いた語り口は作品に独特のリアリティを与えています。
伝説の名優・露口茂氏のバロンと小林桂樹氏の西司朗
物語のキーパーソンとなる人形「フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵(バロン)」を演じたのは、『太陽にほえろ!』の山さん役などで一世を風靡した名優・露口茂氏です。低く深く響くダンディズムに満ちた声は、雫が紡ぐファンタジー世界への案内役として唯一無二の品格をもたらしました。
また、地球屋の主人で聖司の祖父である西司朗役には、東宝映画黄金期を支えた大名優・小林桂樹氏が登用されました。雫の書いた小説を最初に読み、「荒々しくて、率直で、未完成で……聖司のバイオリンのようだ」と温かく包み込む名シーンは、小林氏の包容力ある声のトーンがあってこそ完成した名場面です。