「夢に出てくる人は、相手も自分のことを考えているからだ」という言説は、古今和歌集にある小野小町の有名な和歌「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ(あの人のことを思いながら眠りについたから、夢に出てきたのだろうか)」の時代から日本人の心情に深く根付いています。かつての日本では「相手が自分を強く想うからこそ夢枕に立つ」と解釈される文化が存在しました。
しかし、現代の認知神経科学や睡眠医学の調査報告に基づくと、この現象は脳内における記憶と情動の情報処理プロセスとして説明されます。レム睡眠中、脳の大脳皮質や扁桃体は日中に蓄積された記憶の断片をランダムに再統合します。その際、あなたが意識的・無意識的に強い感情(好意、不安、罪悪感、執着)を抱いている人物の記憶ノードが優先的に活性化するため、その人物が夢に登場するのです。
つまり、夢に出てくる人について「相手も思ってる」と感じる現象の多くは、テレパシーのような相互通信ではなく、自分自身の脳が紡ぎ出した主観的な投影に過ぎません。ただし、相手と日常的に密接なコミュニケーションを取っている間柄であれば、互いに共通の文脈やストレスを共有している結果として、偶然同じ時期にお互いの夢を見る「心理的同調」が起きる可能性は十分にあります。