他県出身者が京都の人間関係を語る際、必ずと言っていいほど引き合いに出されるのが「ぶぶ漬け伝説」です。他人の家に長居している客に対して、主人が「ぶぶ漬けでもどうどす?」と勧め、客側が「あ、そろそろ帰れという意味だな」と察して引き上げる――という有名なエピソードがあります。
結論から言えば、現代の京都においてこの言葉を額面通りに口にする人はまずいません。生粋の京都人であっても「人生で一度も言ったことも言われたこともない」と答える人が大半を占めています。「京都のぶぶ漬けは嘘なのか?」と問われれば、日常会話の実態としてはほぼ都市伝説というのが事実です。
ただし、「言葉そのものは使わないが、その精神性(本音と建前の使い分け)は日常に溶け込んでいる」という点には注意が必要です。直接的に「帰ってください」と告げるのは角が立つため、別の話題を振ったり、さりげなく時計に目をやったりして相手に察してもらうというコミュニケーションの様式は、今も脈々と受け継がれています。