数年前まで社会を覆い尽くしていた「タイパ(タイムパフォーマンス)」という強迫観念は、ここへ来て完全に変質しつつある。2倍速で動画を消費し、要約記事だけで世界を理解した気になっていた層が、突如として「編集不可能な長尺の現実」へと舵を切り始めた。
象徴的なのが、都内近郊で密かに増殖している「ノン・スクリプト(台本なし)」イベントだ。演者も観客も、次に何が起きるか知らされていない。段取りが崩れ、沈黙が流れ、誰かが吹き出し、突如として奇跡的なグルーヴが生まれる。その予測不能な数時間を共有するためだけに、若者たちは数万円のチケット代を惜しげもなく支払う。「1秒も無駄にしたくない」と急き立てられていた世代が、今や「無駄のなかにしか宿らない生の気配」を必死に買い集めている。