観光パンフレットの表紙を飾るような豪華絢爛な大浴場とは対極に位置しながら、なぜゆりの山温泉は玄人筋の温泉愛好家をこれほどまでに惹きつけるのでしょうか。現地で湯守や常連客への取材を重ねると、その理由は「圧倒的な湧出量」「鮮度」「奇跡的な湯温」という三位一体の物理的条件に集約されます。
一般的な温泉施設では、湯温を保つための加温や衛生管理のための循環・塩素消毒が行われるケースが珍しくありません。しかし、ゆりの山温泉の湯口から毎分ドバドバと音を立てて浴槽へ注ぎ込まれているのは、地下深くから自噴する生まれたての源泉そのものです。浴槽の縁からは常に惜しげもなく湯が溢れ出し、洗い場の床一面を川のように洗い流していきます。
温泉分析書の記載データによると、泉質はアルカリ性単純温泉(pH値9以上)。特筆すべきは、源泉温度が約38〜40度という人間の体温に極めて近い不感温度帯である点です。熱さによる交感神経の興奮を引き起こさず、副交感神経を優位にするこのぬる湯設定こそが、長時間の入浴を可能にしています。
さらに浴槽へ身を沈めて数十秒待つと、湯口から送り出される微細な炭酸ガスと天然温泉ガスが、無数の小さな気泡となって全身の産毛にびっしりと付着します。手で払っても払っても瞬時に新たな気泡が肌を包み込む感触は、まさに天然の炭酸トリートメント。ほのかな硫黄の香りに包まれながら湯と一体化するこの神秘的な感覚が、「他の温泉では絶対に替えがきかない」と評される最大の要因です。