人間の眼球は、左右それぞれ6本ずつある「外眼筋」と呼ばれる筋肉が絶妙なバランスで連動することで、見たい対象へと視線を正確に合わせています。通常、本や画面などの至近距離を見るときには、両目を鼻側に寄せる「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる運動と、水晶体を厚くしてピントを合わせる「調節」が同時に働きます。
問題となるのは、デジタル端末を20cm〜30cm未満の極めて近い距離で、何時間も連続して見つめ続ける行為です。至近距離を凝視し続けると、黒目を内側に引っ張る「内直筋」が異常な筋痙攣を起こし、極度の過緊張状態に陥ります。日本弱視斜視学会などの研究データでも指摘されている通り、この筋緊張が慢性化すると、遠くを見ようとしても内直筋が弛緩せず、片方あるいは両方の黒目が内側に固定されてしまいます。これが寄り目が戻らない原因の正体です。
従来、急性後天性共同性内斜視は脳腫瘍や中枢神経の異常に伴って発症する稀な疾患として扱われていました。しかし、スマートフォンの爆発的な普及以降、明らかな脳病変がないにもかかわらず、デジタル画面の過剰注視を直接の引き金として突発的に内斜視を発症するケースが臨床報告として急増しています。