ゲーゲンプレスという言葉は、ドイツ語の「Gegen(対抗する・反対の)」と「Pressing(プレッシング)」を組み合わせた造語です。相手の攻撃やカウンターアタックに対抗して、ボールを失ったまさにその瞬間(ネガティブ・トランジション)に集団で強烈な圧力をかけ、相手陣内の高い位置でボールを奪い返す戦術行動を指します。
英語圏では一般に「カウンタープレス(Counter-pressing)」と呼ばれており、戦術的な同義語として扱われます。ただし、単なる「高い位置からの守備(ハイプレス)」と混同してはなりません。ハイプレスは「相手が自陣深くでボールを保持している際、守備陣形を押し上げてパスコースを限定する組織的守備」であるのに対し、ゲーゲンプレスは「自分たちが攻撃から守備へ切り替わった直後の数秒間」に限定して発動される極めて局地的な強襲を意味します。
このアプローチを語る上で欠かせないのが、「ドイツ・サッカー界の教授(デア・プロフェッサー)」と称されたラルフ・ラングニックの存在です。ラングニックは1980年代から1990年代にかけて、アリゴ・サッキが率いたACミランのゾーンプレスや、ヴァレリー・ロバノフスキーによるディナモ・キエフのプレッシング理論を徹底研究。レッドブル・グループの総責任者としてザルツブルクやライプツィヒにその DNA を植え付け、現代プレッシングの理論的基盤を構築しました。
その理論を、感情を揺さぶる「エモーショナルなフットボール」へと昇華させたのがユルゲン・クロップでした。クロップはかつてメディアの前で、戦術の本質を突いた極めて印象的な言葉を残しています。
「どんな名司令塔(プレーメーカー)であっても、相手ゴール前でゲーゲンプレスによってボールを奪い返す瞬間ほど、精度の高い決定的なラストパスを出すことはできない」
つまり、ゲーゲンプレスの本質は守備のための防衛策ではなく、「相手が守備から攻撃へと陣形を広げた無防備な瞬間を狙い撃ちにする究極の攻撃戦術」なのです。