人間の首の左右、喉仏から指2本分ほど外側の上方には、心臓から脳へ血液を送る総頸動脈が「内頸動脈」と「外頸動脈」に枝分かれする分岐部が存在します。この分岐部に位置するわずかに膨らんだ部分が「頸動脈洞」です。 頸動脈洞の壁面には、血液が壁を押す力(血圧)をミリ秒単位で感知する極めて高感度なセンサー(圧受容器)が埋め込まれています。このセンサーの本来の役割は、激しい運動などで血圧が跳ね上がった際に脳の毛細血管が破綻しないよう、脳幹の延髄へブレーキ信号を送ることです。 ところが、外部から指や衣服、あるいは格闘技の腕などで首が強く圧迫されると、センサーは「体内の血圧が危険水準まで急上昇した」と致命的な誤認を起こします。ここから連鎖的に発生するのが、迷走神経刺激による血圧低下メカニズムです。
延髄から副交感神経の主幹である迷走神経を通じて心臓へ「拍動を落とせ」という指令が伝達されると同時に、全身の血管を緊張させていた交感神経の働きが一気に遮断されます。その結果、以下の現象がほぼ同時に発生します。
* 著しい徐脈(脈拍減少): 心拍数が1分間に30〜40回台まで急落し、重症例では一時的な心停止に陥る。 * 急激な血圧低下: 全身の末梢血管が拡張し、血液が下半身へと滞留することで収縮期血圧が50mmHg以上も急降下する。 心臓から脳へ送り出される血液の供給圧が瞬間的にゼロに近づくため、頸動脈洞反射による失神の理由はまさに「脳全体の急速な虚血状態(全脳虚血)」に他なりません。人間の脳は血流が完全に途絶えると約3〜5秒で意識を維持できなくなり、本人の意思とは無関係にバタリと崩れ落ちてしまうのです。