アバクロの現在を理解する上で避けて通れないのが、2010年代前半に経験した深刻な転落劇です。2009年に鳴り物入りでオープンしたアバクロンビー&フィッチ 銀座店には連日大行列ができ、日本中でもアバクロのロゴパーカーやポロシャツが大流行しました。しかし、その爆発的ブームの裏側には、時代と逆行する危ういビジネスモデルが潜んでいたのです。
当時CEOを務めていたマイク・ジェフリーズ氏は「アバクロはクールで美しく、魅力的な若者のための服であり、それ以外の人々に着てほしくない」という徹底した選民思想を掲げていました。店頭に立つスタッフ(ストアモデル)は容姿や体型だけで採用され、白人至上主義的な採用基準や、ふくよかな体型の女性向けサイズ(XL以上)の排除など、過激な排他主義がまかり通っていたのです。
この歪んだブランド戦略は、2022年に公開されたNetflixのドキュメンタリー映画『ホワイト・ホット:アバクロンビー&フィッチの栄枯盛衰』でも克明に描かれ、世界中に大きな衝撃を与えました。消費者の価値観が「多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)」へとシフトする中で、アバクロの姿勢は激しいボイコット運動を引き起こします。ファストファッションの台頭も重なり、業績は急降下。かつての栄華を象徴した銀座旗艦店をはじめとする世界中の大型路面店が次々と閉店に追い込まれる事態となりました。