築地場外市場のメインストリートである波除通りやもんぜき通りを歩けば、英語や中国語の呼び込みと観光客で埋め尽くされた光景が広がります。しかし、東小路などの極めて狭い隙間へと足を踏み入れると、空気は一変します。すれ違うことすら困難な幅1メートルほどの路地。その陰にひっそりと白木の看板を掲げるのが、築地本種という路地裏の名店です。
この店が熱烈に支持される最大の理由は、「市場で働くプロや常連客のために実直な仕事を続ける」というブレない姿勢にあります。豊洲移転後も築地場外に残った仲卸関係者や、長年築地で舌を肥やしてきた玄人たちが、今なお日常的に通い詰める拠り所。資本系チェーンのような過剰な装飾やSNS向けの誇張された盛り付けは一切なく、昔ながらの寿司屋の美学が色濃く息づいています。
店舗の構造も極めて独特です。店主が目の前で包丁を振るう数席の極小カウンター席と、路地を挟んだ向かい側にある「離れ」のような座敷部屋(テーブル席)。注文が入ると、握りたての寿司やちらしが路地を渡って運ばれていく光景は、築地でもここでしか見られない原風景です。この隠れ家的な風情そのものが、訪れる者に「本物の築地を見つけた」という深い納得感を与えています。