タイタニック号の悲劇は、そのドラマ性ゆえに数多くのオカルトや陰謀論の標的となってきました。特にインターネット上で長年拡散され続けているのが、「姉妹船オリンピック号とのすり替え保険金詐欺説」と「連邦準備制度(FRB)創設をめぐる暗殺説」です。しかし、これらは歴史的・物証的な検証によって完全に否定されています。
すり替え説の骨子は、「タイタニック号の姉妹船であるオリンピック号が軍艦と衝突事故を起こして修理不能になり、ホワイト・スター・ライン社が巨額の保険金を得るために、両船の外観をすり替えて意図的にタイタニック号(中身はオリンピック号)を沈没させた」というものです。この説は一見すると緻密に思えますが、以下の3つの決定的証拠によって完全に破綻しています。
- 部品刻印のシリアルナンバー:1985年にロバート・バラード博士によって船体が発見されて以来、海底から回収された数百点の機械部品、プロペラシャフト、木製調度品に至るまで、タイタニック号の建造番号である「401」(オリンピック号は400)が明確に刻印されています。
- 保険金の受取額と経済的損失:ホワイト・スター・ライン社がタイタニック号にかけていた船舶保険は500万ドルであり、実際の建造費(約750万ドル)を大幅に下回っていました。沈没によって同社は莫大な純損失を被り、評判失墜による経営危機へと直面しており、経済的動機が成り立ちません。
- 構造的相違の大規模改修の不可能性:2隻は基本設計こそ似ているものの、Aデッキの遊歩道の窓配置(タイタニック号は前半分が密閉ガラス、オリンピック号は全開)やBデッキの客室レイアウトが根本的に異なっていました。ベルファストの造船所で数千人の労働者の目を盗んで短期間でそれらを偽装・改造することは物理的に不可能でした。
また、金融王J・P・モルガンがFRB創設に反対していたジョン・ジェイコブ・アスター4世ら大富豪を抹殺するために船を沈めたという説も、モルガン自身が出航直前に体調不良を理由にキャンセルしたという偶然を針小棒大に解釈した典型的な後付けの都市伝説に過ぎません。