保護者が最もやってしまいがちな失敗が「本体の丸洗い」です。プラスチック製の外装に覆われているため、一見すると水に強そうに見えますが、楽器メーカーの公式発表資料や技術マニュアルでも本体の水洗いは固く禁じられています。本体水洗いNGの理由は、内部構造の根幹を揺るがす3つの物理的リスクにあります。
第1のリスクは、音階を生み出す心臓部である内部リードのサビ防止と乾燥法の難しさにあります。鍵盤ハーモニカの内部には、各音階に対応した真鍮(ブラス)や特殊銅合金製の薄い金属板「リード」が数十枚並んでいます。本体内部に水が侵入すると、リードやそれを固定するネジ類に瞬く間に赤サビや青サビが発生します。リードにわずかでもサビや腐食が生じると、質量や振動係数が変化し、「音程が半音近くズレる」「特定の鍵盤から音が出なくなる」といった回復不能な障害を引き起こします。
第2のリスクは、気密性を保持する接合部材の劣化です。鍵盤の下や空気室の境界には、空気漏れを防ぐためのフェルト、コルク、特殊接着剤が多用されています。水分を吸ったフェルトは収縮・硬化し、息を吹き込んでもスカスカと空気が抜けて発音しにくくなります。
第3に、一度内部に入った水分は、複雑なバルブ構造の隙間に滞留し、完全乾燥までに何日も要します。その湿気が温床となり、本体内部でカビが爆発的に繁殖する本末転倒の事態を招くのです。日頃の演奏後には、本体底面や側面にある水抜きボタンの使い方を守り、ボタンを押しながら鍵盤を押さずに強く息を吹き込んで内部の呼気結露を外へ吹き飛ばすケアが基本となります。