表書きの文言と並んで参列者を悩ませるのが、文字の墨色に関する決まり事です。表書きと中包みの記載には、古来からの儀礼的な意味合いが色濃く残されています。
香典袋の薄墨と濃墨のルール
通夜や告別式、四十九日法要の前に持参する不祝儀袋には、原則として薄墨(うすずみ)を用います。薄墨を使う背景には、二つの情緒的な理由が込められています。
- 突然の悲報に接し、流した涙で墨が薄まってしまったという哀悼の意。
- 予期せぬ知らせに慌てて駆けつけたため、硯で十分に墨をすることができなかったという切迫感の表明。
これに対し、あらかじめ日程が決まっている四十九日法要や一周忌などの年忌法要、初盆の席では濃墨(通常の黒墨)を用います。準備期間が十分にあり、「遺族と共に哀しみの節目を乗り越え、しっかりと供養の準備を整えた」という心情を表すためです。
香典袋のお札の向きと入れ方
お札の封入方法にも細心の注意が必要です。慶事(お祝い事)とは真逆の作法が求められます。
- お札の向き:お札を取り出した際、肖像画が袋の裏側(底側)を向くように配置し、かつ肖像画が下にくるように封入します。「顔を伏せて悲しみに暮れる」という意味合いを表現する所作です。複数枚入れる場合は、必ずすべての札の向きを同一に揃えます。
- 紙幣の状態:ピン札(新札)をそのまま入れるのは避けます。「あらかじめ亡くなることを予想して準備していた」という誤解を与えないためです。手元に新札しかない場合は、中央に一度折り目をつけてから包むのが正しいマナーです。ただし、あまりに汚損した紙幣や破れた紙幣を入れるのも失礼にあたります。
水引の結び方(黒白・黄白・双銀)の選び方
不祝儀に用いられる水引は、二度と繰り返してほしくない事象であるため、ほどけない「結び切り」または「あわじ結び」が絶対条件です。
全国的には「黒白」の水引が最も一般的ですが、包む金額が5万円以上の高額になる場合は、格の高い「双銀(銀一色)」の水引が選ばれます。また、関西地方や北陸地方の一部地域では、通夜・葬儀は黒白、四十九日法要以降の法事や初盆には「黄白(黄色と白)」の水引を用いる慣習が根強く定着しています。地域の慣習に合わせた使い分けが重要です。
四十九日法要の御仏前の書き方
中包み(中袋)の表面中央には、包んだ金額を旧字体の大字(だいじ)で明記します。改ざんを防ぐための伝統的な作法であり、日常的な算用数字や単純な漢数字は避けます。
例として、1万円なら「金 壱萬圓」、3万円なら「金 参萬圓」、5万円なら「金 伍萬圓」、10万円なら「金 拾萬圓」と書きます。裏面左下には、郵便番号、住所、氏名を濃墨で丁寧に楷書で記します。