縄文杉登山の規制期間(3月〜11月)中、一般車両の乗り入れが制限される荒川登山口へは、ここから運行される屋久杉自然館 荒川登山バスへの乗り換えが義務付けられています。そのため多くの登山者は早朝に駐車場とバス停を利用するだけで立ち去ってしまいがちです。しかし、館内に一歩足を踏み入れると、その印象は根底から覆ります。
最大のハイライトは、2005年の大雪によって折れ落ちた縄文杉の巨大な大枝、通称「いのちの枝」の実物展示です。長さ約5メートル、重さ1トンを超える巨木の一部が目の前に鎮座し、数百年から千年以上の過酷な風雪に耐え抜いた年輪の緻密さを間近で観察できます。展望デッキから遠目に眺めるしかない実際の縄文杉と比べ、樹皮の質感や年輪の詰まり方を手の届く距離で体感できる貴重な機会となっています。
さらに、江戸時代に島津藩への年貢として伐採された屋久杉の歴史や、過酷な山中で手作業により木を伐り出していた当時の道具「大鋸(おが)」、木工技術の変遷に関する一次資料も充実しています。屋久島の森が単なる手つかずの原生林ではなく、人と自然のせめぎ合いと共生の中で守られてきた歴史的背景が浮き彫りになります。