農薬を捨てたことで、収穫ゼロの日々が何年も続いた。伝説の農家・木村秋則氏を支えたのは、極貧に耐え抜いた家族の絆に他ならない。愛する妻の肌が農薬によって荒れてしまうのを防ぎたいという純粋な想いから始まった挑戦は、やがて一家の生活を極限まで追い詰めていった。
トラックを売り、全財産を使い果たし、近所からは「かまど消し(破産者)」と嘲笑された。絶望の果てに山へ踏み入った木村氏が目にしたのは、農薬も肥料もない山奥で青々と茂るドングリの木だった。鍵は「木」ではなく「土」にあったのだ。山肌の豊かな腐葉土、そこに息づく無数の微生物——この自然の理に気づいた瞬間から、不可能とされた奇跡への歯車が回り始めた。