進化論の観点からこの難問にアプローチした場合、導き出される結論は極めてシンプルです。「卵が先」であることは、動かしようのない事実です。この結論には、マクロな視点とミクロな視点という2つの決定的な科学的根拠が存在します。
第1の根拠は、化石記録が示す生命進化の歴史です。殻を持つ卵(有羊膜類の卵)が地球上に誕生したのは、古生代石炭紀後期の約3億4000万年前とされています。水辺を離れて陸上で繁殖するために開発されたこの殻付き卵は、爬虫類の繁栄を支え、中生代の恐竜たちへと受け継がれました。恐竜の卵の化石は世界中で多数発掘されており、鳥類が獣脚類恐竜から分岐して誕生した時期(約1億5000万年前)よりも遥か昔から「卵」は完成されていたのです。したがって、「卵という構造」と「鶏という鳥」のどちらが先に地球上に現れたかといえば、数億年単位の差をつけて卵が先ということになります。
第2の根拠は、集団遺伝学における「個体の定義」です。現代のニワトリ(学名:Gallus gallus domesticus)は、東南アジアの密林に生息していた野鶏である「セキショクヤケイ」を直接の祖先としていることが、近年の全ゲノム解析によって立証されています。人類が農耕を開始した約8000年から1万年前にかけて家畜化が進んだとされています。
進化の過程を厳密に切り取ると、ある日突然、成鳥のニワトリが空から降ってきたわけではありません。ニワトリの直前の祖先である「ニワトリに極めて近い鳥(原初種)」のオスとメスが交配した際、配偶子の形成過程で遺伝子変異が発生しました。その受精卵のDNAこそが、生物学的に「ニワトリ」と定義できる最初のゲノム構成を持っていたのです。つまり、歴史上最初のニワトリという生命体は、成鳥としてではなく、受精卵というパッケージの中で誕生したことになります。この遺伝学的プロセスから見ても、鶏という個体が存在する前に、それを内包した卵が存在していたことは明白です。