一度皮膚に刻んだインクは、本人の意図にかかわらず日常生活の基盤に予期せぬ制約を課すことになります。特に深刻なのが、就職や生命保険への影響です。
公務員(警察官、消防士、自衛官、教員など)の採用選考では、健康診断や身体検査の過程でタトゥーの有無が厳密に確認されるケースが多く、発覚した時点で不合格や採用見合わせとなる事例が後を絶ちません。民間企業においても、金融機関、航空業界、医療・福祉関係、ブライダルやラグジュアリーホテルの接客部門など、清潔感と規律が求められる職種では、入社誓約書に「身体改造を行っていないこと」を明記させる企業が多数派です。半袖やクールビズの着用時に外部へ露出する位置にある場合、人事評価や昇進で不利に働くリスクは否定できません。
また、民間の生命保険や医療保険の加入時にも厳格な壁が存在します。刺青の施術は「感染症(B型肝炎、C型肝炎、HIVなど)の感染経路となり得る行為」と医学的にみなされるため、告知書において施術歴の申告を求められるのが通例です。不衛生な環境での施術が疑われる場合や施術後一定期間が経過していない場合、保険会社から引き受けを拒否(謝絶)されたり、特定疾病不担保の条件を付けられたりする事例が多発しています。
こうした現実に直面し、結婚や出産、転職を機に皮膚科クリニックへ駆け込む人が後を絶ちませんが、そこで直面するのが「除去の過酷さ」です。
現在の医療機関では「ピコ秒レーザー」を用いた治療が主流ですが、レーザー除去の費用相場は手のひらサイズで数十万円、背中一面などの広範囲になれば200万〜300万円を超えるケースが珍しくありません。しかも、レーザーはインク色素を熱と衝撃波で粉砕する治療であるため、施術時には「油が跳ねたような強烈な痛み」を伴います。さらに色素が完全に抜けるまでには2〜3ヶ月おきに1〜2年以上の通院が必要であり、治療後も火傷跡のようなケロイドや皮膚の質感変化(白抜け)が残り、「完全に彫る前の皮膚に戻ることは絶対にない」という厳しい現実を直視しなければなりません。