トルソー症候群の症状は、血栓が詰まる場所によって極めて多彩かつ突発的に現れます。最前線の救急外来で頻繁に目撃されるのは、以下のような中枢神経症状と静脈塞栓の合併です。
トルソー症候群による脳梗塞の症状は、通常の脳卒中と同様に「突然の片麻痺」「構音障害(ろれつが回らない)」「意識混濁」「失語症」「視野の欠損」などです。しかし最大の特徴は、一度の閉塞で終わらず、複数の血管領域で同時多発的、あるいは時間差で断続的に小さな脳梗塞が繰り返される点にあります。そのため「昨日は軽い手のしびれだったが、翌日には反対側の足が動かなくなった」といった非典型的な経過をたどる患者が少なくありません。
あわせて見逃せないのが、下肢の深部静脈血栓症(DVT)や肺動脈塞栓症(PE)、そしてかつてトルーソー医師が自らの身体で確認した「遊走性血栓性静脈炎」です。片方のふくらはぎだけが赤く腫れ上がり痛む、腕や胸の静脈に硬いしこりができたり消えたりを繰り返す、突然激しい息切れや胸痛に襲われるといった徴候は、体内で血栓が量産されている明白な危険信号です。
そして、この危機的状況を客観的な数値で告げるのが「Dダイマー(D-dimer)」の急激な上昇です。Dダイマーは体内で血栓が作られ、それを溶かそうとする過程(線溶現象)で生じる分解産物です。一般的な脳梗塞患者におけるDダイマー値は正常範囲(1.0μg/mL未満)〜軽度上昇にとどまることが多いのに対し、トルソー症候群では10μg/mL〜30μg/mL超という異常値を叩き出すケースが珍しくありません。「明らかな動脈硬化がないにもかかわらず、Dダイマー値だけがけた外れに高い」という乖離こそ、確定診断への最重要シグナルとなります。