「マグロは一生泳ぎ続け、止まると死ぬ」という有名な生態ルールは、単なる誇張表現ではなく、純然たる生理学的事実です。一般的な魚類(タイやコイなど)は、エラ蓋を能動的にペコペコと動かすことで口から水を吸い込み、エラに酸素を送ることができます。これをポンプ換水と呼びます。
対してマグロは、高速遊泳に特化してエラ蓋のポンプ筋肉を退化させてしまいました。そのため、口をわずかに開けた状態で泳ぎ続け、前進することで生じる水流をエラに通過させるラム換水法(Ram Ventilation)を採用しています。自力で水を吸い込めないため、前進を停止した瞬間、エラ組織への酸素供給が完全にストップし、マグロは窒息死に至るのです。
さらに、マグロの体内比重は海水よりも重く、浮き袋(鰾)の容積が小さいため、推進力による揚力を生み出さなければそのまま暗黒の深海へと沈んでしまいます。睡眠中であっても脳の半分を休ませるか、あるいは最小限の代謝レベルまで落としながら、時速数キロ程度の巡航速度で泳ぎ続けることが生き残りの絶対条件となっています。