「昼間は普通に仕事や家事ができていたのに、布団に入った途端にのたうち回るほどの激痛に変わった」という相談は、救急医療の現場でも極めて頻繁に見られます。この現象は気のせいでも精神的な弱さでもなく、人体の構造と自律神経のメカニズムによって引き起こされる必然的な生理現象です。
最大の要因は、横たわることによる血流の物理的な移動にあります。立位や座位の姿勢では重力の影響で血液は下半身へ引かれますが、平らに横たわると全身の血液が均等に巡り、頭部への血流が急速に増加します。歯の内部には硬いエナメル質と象牙質に囲まれた「歯髄腔(しずいくう)」と呼ばれる密閉空間が存在し、その中を神経と血管が走っています。虫歯の細菌感染によって炎症を起こしている組織に血流がなだれ込むと、血管が膨張して強烈な内圧が発生します。膨張した血管が周囲の神経を物理的に圧迫するため、心臓の拍動に同期した「ズキズキ」という脈打つ激痛が発生するのです。
さらに、自律神経の交替現象が痛みの増幅に拍車をかけます。夜間や睡眠時は、身体を休息させるために副交感神経が優位に働きます。副交感神経が活性化すると末梢血管が拡張するため、歯髄内の血流量はさらに増大します。加えて、昼間は外部からの視覚・聴覚刺激によって痛みの知覚が分散されていたのに対し、暗く静まり返った夜間は意識が患部へ極度に集中します。痛みの抑制物質であるエンドルフィンの分泌動態の変化も相まって、耐え難い激痛へと発展する構造が存在します。
もう一つの代表例が、20代から30代に多発する親知らずの急激な腫れ(智歯周囲炎)です。完全に生えきっていない親知らずの周囲は歯垢が溜まりやすく、日中の疲労や免疫力低下に夜間の血流集中が重なることで、深夜に急激な蜂窩織炎(ほうかしきえん)や開口障害を伴う激痛を引き起こします。