人が誰かに対して情を抱く過程には、脳科学および認知心理学の明確なプロセスが介在しています。「情が湧く心理」の根底にあるのは、心理学で広く立証されている「単純接触効果(ザイオンス効果)」です。人間は接触回数が増えれば増えるほど、警戒心を解き、親近感を抱く性質を持っています。
では、日常の中で「情が芽生える瞬間」とは具体的にどのようなタイミングでしょうか。取材で得られた事例や行動観察からは、次の3つの契機が浮かび上がってきます。
第1に、「相手の弱さや孤独に触れた瞬間」です。普段は虚勢を張っている人が見せた涙や、幼少期のトラウマの告白といった自己開示を受けると、脳内では共感や養育行動を司るホルモン「オキシトシン」が分泌されます。これにより、「この人の脆さを理解できるのは自分しかいない」という錯覚が生じます。
第2に、「苦境や共通の目標を共に乗り越えた経験」です。過酷な業務環境を共にした同僚や、金銭的苦難を乗り越えたパートナーに対して生じる感情がこれに該当します。苦痛を分かち合った記憶は強い連帯感を生み、「情が移る意味」を単なる親愛から運命共同体のような結びつきへと格上げしてしまうのです。
第3に、「相手の世話を焼き、自ら手を差し伸べた経験の蓄積」です。認知不協和理論が示す通り、人間は「自分が助けた相手」に対して『これだけ手をかけたのだから大切な人に違いない』と無意識に意味づけを行います。世話を焼けば焼くほど、相手への情は深く、強固に刻み込まれていきます。