灼熱のメキシコシティ、アステカ・スタジアム。観客11万人を超す大歓声のなかで行われたアルゼンチン対イングランドの一戦は、単なるフットボールの試合を超えた緊張感を孕んでいた。フォークランド紛争からわずか4年。両国の政治的緊張が色濃く漂うピッチで、後半6分にその瞬間は訪れる。
イングランドのクリアミスが自陣エリア高く舞い上がった。果敢に飛び出した185cmのシルトンに対し、165cmのマラドーナが跳躍。頭ではなく、あからさまに突き出された左拳がボールを捉えた。スタジアムの誰もがハンドを確信した瞬間だったが、アリ・ベンナセル主審の手はセンターサークルを指した。試合後の記者会見でマラドーナが放った「少しはマラドーナの頭で、少しは神の手に押された」という言葉は、瞬く間に世界を駆け巡った。