なぜ竹久夢二の美人画は人々を魅了するのか?愛憎劇と波乱の生涯を徹底解説

なぜ竹久夢二の美人画は人々を魅了するのか?愛憎劇と波乱の生涯を徹底解説

なぜ竹久夢二の美人画は人々を魅了するのか?愛憎劇と波乱の生涯を徹底解説の基礎知識と応用に迫る! わかりやすい言葉でご紹介しています。

竹久夢二の芸術を語る上で、避けて通れないのが生涯に深く関わった3人の女性たちの存在です。彼の描く美人画の変遷は、そのまま彼自身の愛の葛藤と破局のカルテに他なりません。

第一の女性は、夢二が生涯で唯一入籍した妻・岸他万喜(たまき)。金沢出身の未亡人であったたまきは、切れ長のエキゾチックな目元を持つ堂々とした美女でした。夢二の初期の画風を決定づけた存在でありながら、たまきの強い自我と夢二の過剰な嫉妬深さが激突し、わずか2年で協議離婚。その後も同居と別居を繰り返し、旅先で夢二がたまきの手をナイフで傷つける流血事件を起こすなど、激しい愛憎の泥沼から逃れられませんでした。

第二の女性にして、夢二が生涯「最愛の女性」と呼び続けたのが笠井彦乃です。日本橋の裕福な紙問屋の令嬢であり、夢二の熱烈なファンとして現れた彦乃は、たまきとは対照的に儚げで純粋無垢な女性でした。2人は周囲の猛反対を押し切って京都で同棲生活を始め、夢二は彼女を「山猫」の愛称で呼び、創作の情熱を燃え上がらせました。しかし、彦乃は結核を発病。父によって東京の病院に強制隔離され、面会すら許されないまま、1920年に25歳の若さで病没します。この永遠の別れが、夢二の心に生涯消えない傷痕を残しました。

第三の女性が、彦乃の死の直前に出会った絵のモデル、お葉(本名・佐々木カネ)でした。東京美術学校の有名教授たちからも指名されていたプロのモデルで、肉感的な美しさを持っていたお葉は、傷心の夢二を慰め、やがて同棲生活に入ります。夢二の最高傑作と名高い『黒船屋』(1919年発表)は、まさにこの転換期に描かれました。

黒い猫を抱き、物憂げな視線を宙に漂わせる裸足の女性を描いた『黒船屋』。その肉体的なポーズはお葉をモデルとしながらも、描かれた顔立ちや醸し出される哀切は、失われゆく彦乃の面影を重ね合わせたものとされています。愛する者を失った痛みと、新たなミューズへの執着が複雑に交錯した本作は、夢二の内面に棲みつく「愛の亡霊」を定着させた記念碑的絵画なのです。

田中 結衣
著者

田中 結衣

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。