即位礼正殿の儀を象徴する光景といえば、宮殿・松の間に聳え立つ「高御座(たかみくら)」と「御帳台(みちょうだい)」、そして皇族方が身にまとわれた典雅な伝統装束です。
高御座は、天皇の玉座としての起源を奈良時代以前にまで遡る極めて神聖な装置です。現在の高御座と皇后陛下がお立ちになる御帳台は、大正天皇の即位(1915年)に際して古制に倣って新調されたもので、高さ約6.5メートル、重さ約8トンにも達する壮大な黒漆塗りの八角形構造物です。最上部には宝珠と鳳凰が据えられ、精緻な螺鈿細工と錦の帳(とばり)で覆われています。
この巨大な調度品は普段、京都御所の紫宸殿に保管されています。東京の皇居で即位の礼を挙行するにあたっては、3,000点以上にも及ぶ部材に慎重に解体され、陸路で自衛隊のヘリや大型トラックを用いて厳重に皇居へと移送されました。現場の宮内庁関係者の証言によると、漆塗りのわずかな傷や温度・湿度による木材の歪みを防ぐため、移送から組み立て、耐震対策の金具の微調整に至るまで、熟練の宮内庁技術職員と伝統工芸職人が数カ月間にわたりミリ単位の作業を重ねたと記録されています。
儀式で着用される装束にも、途絶えることなく継承されてきた日本の色彩美と格式が宿っています。
天皇陛下がお召しになるのは、嵯峨天皇の弘仁11年(820年)に定められて以来の歴史を誇る「黄櫨染御袍(こうろせんのごほう)」です。ハゼノキの樹皮とスオウで染め出された赤茶がかった黄褐色は「真昼の太陽の光」を象徴し、天皇のみが着用を許される絶対的な禁色(きんじき)とされています。光の当たる角度によって深く神秘的な色合いを放つこの袍には、桐・竹・鳳凰・麒麟の文様が緻密に織り込まれています。
一方、皇后陛下がまとわれたのは、平安時代の国風文化の精華である「五衣・唐衣・裳(いつつぎぬ・からぎぬ・も)」、通称「十二単(じゅうにひとえ)」です。白小袖の上に紅の打袴、幾重にもグラデーションを描く五衣、艶やかな唐衣、そして後ろに長く引く裳で構成され、その総重量は約15〜16キロにも及びます。重厚な装束を身にまといながら、寸分の乱れもなく優美な歩みを保つ所作の裏には、宮内庁の衣紋道(えもんどう)を司る衣紋方による徹底した着付け技術と、数カ月にわたる事前の歩行習礼(練習)がありました。