ネット上の言説において散見される誤解のひとつが、「海風が強くて試合中止が多いのだから、さっさとドームにすれば解決する」という極論です。しかし、そこには埋立地特有の土木工学的制約と、気象データに対する一般的な認識のズレが潜んでいます。
まず、ZOZOマリンスタジアムにおける強風による中止基準の実態です。野球規則上、明確な風速リミットが一律に数値化されているわけではありませんが、マリンスタジアムの現場運用では風速13m/sを超えると打球判断が著しく困難になり、風速15m/s〜18m/s前後に達すると安全確保のために中止(またはコールド)の判断が下されます。しかし、実際に風速理由のみでノーゲームとなる事例はシーズン中に数回程度であり、大半の試合は風向きを読みながら実施されています。海風は厄介なトラブル要因であると同時に、名物「風速・風向表示板」とともに球場のアイデンティティとして機能してきた側面を見落としてはなりません。
さらに深刻な盲点は、建設地となる幕張沿岸部の地盤特性です。東京湾の埋立地盤は軟弱層が厚く、数万トンにおよぶ巨大なドーム屋根を支える基礎杭を打ち込むには、通常の内陸部と比べて莫大な地盤改良コストが発生します。屋根の開閉機構を設けた場合、常に潮風によるサビや塩化物の侵入にさらされるため、可動部のメンテナンス費用は数年で巨額に跳ね上がります。「屋根をかければすべて解決する」という単純な発想だけでは、将来的な自治体財政の破綻を招くリスクを孕んでいるのです。