赤字でも走る第三セクター鉄道の真相|存続の理由と廃線危機の最前線

赤字でも走る第三セクター鉄道の真相|存続の理由と廃線危機の最前線

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地方鉄道の存廃議論において、ネット上で最も頻繁に飛び交うのが「赤字路線はさっさと廃線にして、路線バスやデマンド交通に転換すれば安上がりで解決する」という言説です。しかし、2026年の交通業界の実態に照らし合わせると、この主張は極めて危険な誤解と言わざるを得ません。

盲点1:「バス転換すれば安泰」を阻むドライバー不足の壁

2024年4月から適用された自動車運転業務の時間外労働上限規制(いわゆる2024年問題)以降、全国のバス・タクシー業界は壊滅的な運転手不足に直面しています。地方のバス会社では、既存のドル箱路線ですら減便や路線休止が相次いでおり、廃止された鉄道の乗客(朝夕の通勤通学ラッシュ時に1列車あたり数百人規模)を運ぶためのバス運転手を確保することは、金銭面以前に物理的に不可能です。

1両の気動車なら運転士1人で100〜150人を運べますが、バスで同じ人数を輸送するには大型バス2〜3台とドライバー2〜3人が必要になります。運転手人件費の高騰と燃料費の上昇により、「バスに転換したものの運行を維持できず、数年でバス路線すら減便・消滅して完全な交通空白地帯になった」という悲劇が全国で現実化しています。

盲点2:アイデアと公民連携が救った「鉄印帳」の爆発的ヒット

公的支援に甘んじるばかりではなく、民間の知恵を結集して風穴を開けた事例も存在します。その象徴が、2020年7月にスタートし、現在も地方鉄道の強力な集客ツールとして定着している鉄印帳プロジェクトです。

神社仏閣の「御朱印」から着想を得て、第三セクター鉄道等協議会に加盟する全国40の鉄道会社が連携して開始したこの取り組みは、オリジナル帳面(鉄印帳)を片手に全国の指定窓口を訪れ、乗車券と記帳料を支払ってデジタルや手書きの「鉄印」を集めるというものです。発売直後から全国各地で完売が続出し、累計発行部数は数十万部規模に達しました。

この取り組みの真価は、単なるグッズ販売の利益にとどまりません。「鉄印を集める」という明確な動機づけによって、普段は観光客が訪れないような過疎地の三セク鉄道に全国から鉄道ファンやシニア層、女性旅行者が訪れ、乗車運賃のみならず沿線の宿泊施設、飲食店、特産品売場に多大な経済波及効果をもたらした点にあります。縦割りになりがちだった全国の小規模三セク各社が「横の連携」を組むことで、巨額の広告費をかけずに全国的なブランド価値を創出できることを証明した好例です。

高橋 健太
著者

高橋 健太

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。