従来の鉄フライパンにおける最大の障壁は、使い始める前に行う「空焼き」と「油ならし」でした。一般的な鉄製品には流通時のサビを防ぐために工業用のクリアラッカー(サビ止め塗装)が施されており、家庭用コンロで20〜30分間強火で熱し、煙を上げながら被膜を焼き切る重労働が必要でした。しかし、現代の高火力センサー付きガスコンロ(Siセンサー)やIHクッキングヒーターでは、安全装置が作動して必要な高温に達せず、空焼きそのものが不可能になるトラブルが多発していた背景があります。
この構造的課題を打破したのが、藤田金属が誇る特殊技術「ハードテンパー加工」です。1951年創業の大阪府八尾市の町工場で培われたこの技術は、製品本体を大型の専用炉にて約700℃の超高温で赤熱するまで焼き入れ、その直後にオリーブオイルなどの食用油に浸して急冷・焼き付けを行う工程を指します。
工場関係者の証言によると、「職人が一台ずつ状態を目視で確認しながら、700℃の炎で鉄の微細孔を開き、深部まで油を行き渡らせています。これにより、出荷時点でクリアラッカーを一切使わずに強力な酸化被膜と初期油膜が完成している」とのことです。購入者が台所で悪戦苦闘していた過酷な下処理を、職人が工場設備で完全に代行している状態と言えます。これが、届いたその日に洗剤を使わず軽く湯洗いするだけで、すぐに調理を開始できる空焼き不要の理由です。