ネット上の検索コミュニティやSNSで定期的に浮上するのが、「アニヤ・ハインドマーチの店舗が次々と閉店しているのではないか」「ブランド自体が日本から撤退するのではないか」という懸念の声です。かつて青山みゆき通りや銀座の一等地に構えていた優雅な独立路面店が姿を消した時期があったため、このような憶測が一人歩きしてしまった経緯があります。
しかし、流通アナリストの分析および現地取材から判明した店舗閉店の真相は、経営破綻や日本撤退などではなく、ブランド価値を根本から立て直すための「痛みを伴う戦略的事業再構築(リポジショニング)」でした。
2010年代半ば、世界的なラグジュアリー市場の急成長に伴い、多くの欧州ブランドが路面店の過剰出店に走りました。アニヤ・ハインドマーチも例外ではなく、多額の固定費を投じて店舗網を拡大した結果、過剰在庫と固定費の高騰に直面。2018年前後には世界的な財務再編を余儀なくされました。
この危機に対し、2019年に創業者兼デザイナーであるアニヤ・ハインドマーチ自身がCEO兼クリエイティブ・ディレクターとして経営トップに電撃復帰。彼女が断行したのが、以下の3つの抜本的構造改革でした。
- 不採算路面店の計画的閉鎖:固定費が膨大にかかる大型路面店をクローズし、高感度顧客が確実に集まる一流百貨店のインショップへ統合。
- DTC(Direct to Consumer)とデジタルの融合:公式オンラインストアのUXを刷新し、世界中どこからでもオーダーできる体制を構築。
- 「モノ売り」から「ストーリーと体験」への回帰:英ロンドンに誕生させた実験的小売スペース「The Village」のように、期間限定のコンセプトやコラボレーションを通じて熱狂を生み出すアジャイルな出店戦略への転換。
つまり、街頭の路面店が閉鎖されたのは「衰退」ではなく、デジタル時代に最適化された筋肉質なブランド運営へと脱皮するための「攻めの撤退」だったのです。現に現在の同社は、サステナビリティを軸にしたプロジェクトや話題性の高いコラボレーションを連発し、以前を大きく上回る熱狂的なコミュニティを形成しています。