すべての始まりは、江戸時代初期に遡る。伊勢松坂出身の商人、三井高利が江戸の日本橋に創業した呉服店「越後屋」が、巨大ビジネス帝国の原点となった。高利がもたらした経営革新は、当時の商業常識を根底から覆す破壊的なものだった。
当時、呉服取引といえば「つけ売り(ツケ払い)」と年2回の「節季払い」が一般的であり、回収不能のリスクや金利負担が価格に上乗せされていた。これに対し、高利は「現金値引き掛け値なし」という革新的な販売手法を導入。現金を即時に回収する代わりに、明朗会計で高品質な商品を格安で提供した。さらに、反物単位ではなく必要な分だけをその場で裁断して販売する「切り売り」や、オーダーメイドの仕立売りを展開し、一般庶民の支持を爆発的に集めたのである。
加えて、高利は江戸と京都・大阪を結ぶ為替取引にも参入し、両替商としての確固たる地位を築いた。商品を売る「商業」と、資金を回す「金融」を高度に融合させたこのハイブリッド経営こそが、後に巨大なビジネスネットワークを結実させる決定的な足がかりとなった。