ゼノンの挑戦に対して、真っ向から反論を試みたのが巨星アリストテレスである。彼は、時間や空間をバラバラな「点の集まり」として捉えるゼノンの前提そのものに疑問を呈した。時間は分断された瞬間の継ぎはぎではなく、滑らかに連続したものであると主張したのだ。アリストテレスによれば、一瞬という極小の枠組みの中では「静止」も「運動」も定義できない。動きとは、一定の時間幅の中で初めて意味を持つ概念だからである。
時代が下り、17世紀にニュートンやライプニッツが微分積分学を創始すると、この問題は数学的に解決されたかに思われた。物理学・教育出版業界のテキストでも広く解説されているように、「瞬間速度」という概念が導入されたのだ。時間を極限までゼロに近づけることで、その瞬間の速度を数学的に計算できるようになった。矢はどの瞬間においても一定の速度を持って空間を移動しており、静止しているわけではないという解答である。
これで決着がついたと誰もが思った。しかし、物語はここで終わらなかった。