和食の清涼感を演出する最大の要素は、皮の最表面に存在する小さな粒「油胞」に含まれる精油成分だ。ここを包丁の背や刃先で無駄に押し潰してしまうと、せっかくの芳香が空気中に散逸してしまう。プロの板前が包丁を滑らせる際、意識しているのは皮の黄色い層だけを限界まで薄く削ぎ取るミリ単位のコントロールである。
白い綿(アルベド)の部分には強いエグみと苦味が含まれており、これが残ると料理全体の味が濁る原因になる。薄刃包丁を横に寝かせ、りんごの皮を剥くように外皮だけを優しく撫で切るのがポイントだ。かつて『料理の鉄人』として一世を風靡した道場六三郎氏の調理所作に見られるように、刃先を引くように動かすことで、油胞を弾けさせずに香りを皮の中に閉じ込められる。