文藝春秋から刊行され、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『イギリスはおいしい』。この名著が誕生した背景にも、英国滞在時の夫婦での生活体験が色濃く反映されている。まずいと揶揄されがちだった英国料理の美点や、伝統的な家庭の味わいを温かい眼差しで捉え直した視点は、まさに日常を共にした家族の暮らしから芽生えたものだった。
異国の地での苦労や珍騒動を笑いに変え、味わい深い食卓の記憶として書き残す。そのプロセスにおいて、隣で共に紅茶を淹れ、パイを焼き、現地の人々と語らい合った妻の存在は、作品に奥行きを与える不可欠なスパイスとなっていたのである。