独裁体制の狂気を語るうえで欠かせないのが、妻であるエレナ・チャウシェスクの存在だ。権力の二重構造を作り上げた彼女は、自らを「世界最高峰の化学者」と偽り、学術界や内政に絶対的な権力を振るった。実質的な共同独裁者として君臨した二人の専横は、国家の政策決定プロセスを完全に麻痺させた。
国民が死線と隣り合わせの生活を送る中、大統領宮殿には豪華絢爛な調度品と金の蛇口が並べられていた。エレナの偏執的な権力欲と、それに追従する側近たちのゴマすり政治が、独裁者の現実感覚を完全に奪っていった。この現実に足のつかない空中楼閣こそが、急転直下の政権崩壊を招く最大の要因となった。