運動中に生じる歯痛は、単一のトラブルではなく複数の身体現象が連動して発生します。ランニングの着地衝撃や心拍数の上昇がトリガーとなり、隠れていた病変が表面化するケースが代表的です。主な5つの原因とその発生機序を紐解きます。
1つ目は、鼻の奥にある空洞が炎症を起こす副鼻腔炎(上顎洞炎)です。人間の頬骨の奥には「上顎洞(じょうがくどう)」と呼ばれる空洞があり、上の奥歯(上顎の大臼歯)の根元と骨を隔てて極めて近い位置に接しています。風邪やアレルギー、あるいは歯の根の感染によって上顎洞の粘膜が腫れ、膿が溜まると洞内の圧力が上昇します。走る際の上下動によって溜まった膿が揺れ、上顎洞底の神経を直接圧迫するため、「走ると上の奥歯が痛い」「地面を蹴るたびに歯に響く」という特有の症状が現れます。
2つ目は、進行した虫歯や歯根膜炎です。虫歯が歯の神経(歯髄)の近くまで達している場合や、過去に神経を抜いた歯の根の先に膿が溜まる根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)を起こしていると、歯を支えるクッションである「歯根膜」に強い炎症が起きています。ランニングによる着地衝撃の振動が骨を通じてダイレクトに伝わり、敏感になった歯根膜を刺激して鋭い痛みを引き起こします。
3つ目は、運動時の血流増加と血圧上昇による血管拡張です。ジョギングを開始して心拍数が上がると、全身の毛細血管が拡張し血流が急増します。すでに歯髄や歯肉に軽微な炎症が存在している場合、血管の拡張によって神経が圧迫され、心臓の拍動に合わせて「ズキズキ」「ドクドク」と脈打つような強い痛み(拍動痛)が発生します。
4つ目は、ランニング時の無意識な噛み締め(TCH:歯列接触癖)です。運動強度が高くなると、フォームを安定させようとして無意識に奥歯を強く噛み締めるランナーが多く見られます。強い筋緊張が続くと咬筋(こうきん)が疲労して側頭部から顎関節、歯全体へと関連痛が広がるだけでなく、過剰な負荷によって歯根膜に炎症が生じます。
5つ目は、知覚過敏と外気の影響です。特に秋から冬にかけての乾燥した冷たい空気を口呼吸で激しく吸い込むと、エナメル質が摩耗した歯頸部(歯と歯茎の境目)の象牙細管が急激に冷やされ、キーンと刺すような痛みが走ります。