「幼児期健忘」という概念を最初に提唱したのは、精神分析学の創始者ジークムント・フロイトでした。フロイトは、幼少期の性的衝動やトラウマに対する無意識の「抑圧」が原因であると仮説を立てました。しかし、2000年代以降の神経科学の進展により、この見解は大きく書き換えられています。
トロント大学のポール・フランクランド博士らによるマウス実験など、最新の脳科学研究では、海馬の神経新生を人工的に抑制すると幼児期健忘が起きにくくなり、逆に神経新生を促進させると成体マウスでも過去の記憶を忘却することが実証されました。
言語の未発達も大きな要因です。私たちは通常、出来事を言葉でラベリングして整理します。「パパと動物園でキリンを見た」という言語体系がない時期の記憶は、言語を獲得した後の脳内検索エンジンでヒットさせることができません。この言語化の壁と神経回路の再配線こそが、フロイトの精神分析を超えた現代科学の結論です。