キッチンの下がり天井で生じる圧迫感を防ぎ、洗練された空間を構築するためには、建築人間工学に基づいた高さ寸法の厳密なコントロールが欠かせません。空間心理学の観点では、天井高の変化は人間の領域意識に直接作用します。リビングの開放的な大空間からキッチンの低めの天井へと視線が移行することで、緩やかな「心理的バウンダリー(境界線)」が形成され、包まれるような安心感(コージー感)が生まれます。しかし、この高低差が過剰になると、安心感は一転して拘束感へと変化します。
多くの住宅設計現場で導き出された標準解は、「ベース天井高2,400mmに対し、下がり幅を100mm〜150mmに抑える」設計です。この場合、キッチン部分の有効天井高は2,250mm〜2,300mmとなります。建築基準法施行令第34条では居室の天井高は2,100mm以上と定められているため法的には何ら問題ありませんが、2,200mmを下回ると急激に閉塞感が増大します。
決定的な圧迫感対策として有効なのが、「水平ラインの連続性」を保つ手法です。下がり天井の端部をキッチンのワークトップやカップボードの端部とミリ単位で揃え、余計な凹凸を視界に入れない設計が美しさを左右します。さらに、段差部分に建築化照明(間接照明)を組み込んで上方の天井面を光で照らし上げると、光のグラデーションによって天井が高く感じられ、実寸以上の広がりを演出できます。